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中原中也「酒場にて(定稿)」
- 2021年5月26日
- 読了時間: 1分
今晩あゝして元気に語り合つてゐる人々も、
実は、元気ではないのです。
近代(いま)といふ今は尠(すくな)くも、
あんな具合な元気さで
ゐられる時代(とき)ではないのです。
諸君は僕を、「ほがらか」でないといふ。
しかし、そんな定規(ぢやうぎ)みたいな「ほがらか」なんぞはおやめなさい。
ほがらかとは、恐らくは、
悲しい時には悲しいだけ
悲しんでられることでせう?
されば今晩かなしげに、かうして沈んでいる僕が、
輝き出でる時もある。
さて、輝き出でるや、諸君は云ひます、
「あれでああなのかねえ、
不思議みたいなもんだねえ」
が、冗談ぢやない、
僕は僕が輝けるやうに生きてゐた。
(一九三六・一〇・一)
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